「ほーッ」
居並ぶ5人から嘆息の声が漏れる。
保管している着物地の中から、私が一等気に入っている薄地の布を出した時のことだ。
なんと、きれいな、エレガントな着物の布。色は赤とも朱とも形容のしようがない。
黒い格子柄が入っている。もう一枚は全体に薄淡いピンクの花柄が描かれた総柄。
「大正の着物よ。大正から昭和の初めの着物の布。なんてきれいなんだろう!」
手芸の先生の声ご一緒にみえた先生のご主人も身を乗り出して来られた。
そいえばそうだ。初めて見た時からなんと美しい布だろうと思っていたけど、言われて
みれば見覚えがある。昔の雑誌「ひまわり」に中原淳一が描いた少女が来ていた着物の柄、
そして竹久夢二の絵の中の美少女の着物の柄だ。
午前10時半から始めた手芸の先生と、手拭いのデザインの絵をお願いしたくて
三春からお越しいただいたAさん、そしてAさんのお兄さんご夫妻との6人ミーティング。
初対面のご挨拶が終わった後、すぐにAさんが「こんなものを作ったのですが」と出して
くださったのは、破竹のような細い竹を使って作ったお箸入れ。ほんとうに見事なもので
スポンと音をさせて蓋を抜き取ると、きちんと普通のお箸の形をした、けれど竹で
作ったお箸がお行儀よく現れる。矢竹という竹を使用するのだそうだ。
物作りの極致というか、ほんとうに素晴らしい。
全国の皆様から送って頂いた着物を利用して、どんな方法で家庭洋裁から仕事としての
洋裁、または手芸に転じることができるのか、一過性の品物を作るのではなく、永続性の
ある商品としての製品を作れるのか、そんな相談をお願いした手芸の先生が、この
お箸入れには袋があるほうがもっと素敵になりますよ、とおっしゃった。
そして選ばれたのが男性の袴の布地。
黒い色の布地があるな、とは思っていたけど、男性用袴の布地だなんて考えたことも
なかった。大正の布地と袴の布地を合わせて袋のモデルができました。
これはミラノ行き。
着物布地の選別、整理。手拭いの話、志津川のご出身で津波でご実家を無くされた
先生のご主人のお話、三春で、原発の爆発のきのこ雲を見、翌日には閃光、そして爆発音
を聞いて、逃げました、とおっしゃるAさんのお話、宮城では話題にもならないリアルな
放射能の話。
話題の種はつきず、ミーティングは夜7時半に終了。
話のあまりの面白さに気が付きませんでしたが、外はしんしんと雪が降り積もり銀世界に
なっていました。