Oさんのこと、もう少し話させてください。
62歳のOさんは学校時代家が貧しかったって。あの時代、なかなか金持ちの人は
いませんでした。でも南三陸の小さな町で一生終わるのはなんとしても嫌で外国
へ行きたかったって。奨学金を受けて大学に入り、新聞配達をして苦学したって。
3年生の時、アルバイトをしてお金を貯め、最初は船で、それからシベリア鉄道に
乗って憧れのヨーロッパに向かったって。1ドル360円の時代だもの。外国へ行く
なんてほんとに大変なことでした。3ヶ月のつもりが一年近くもいて、おうちの都合
で帰りたくなくて帰りたくなくて仕方がない故郷に戻ったって。長男だから。
それから旅行会社に入ってたくさん外国に行って外国語の先生にもなって新
聞記者になられた。本を読むのがなにより好きで音楽も好きで、本は5千冊、CD
は300枚集めていたって。ちょっとした図書館ができるほどの蔵書ですね。
ご両親もご高齢になられて、家をバリアフリーにしてこれからという時に、本も
CDもお仕事道具のパソコン2台もオーディオもそして家も全て津波に流された。
一度お宅の写真を見せていただいたら、色とりどりのお花がお庭に植えこま
れていた。お花がお好きなんですね。そしてお友達も3人亡くなられたって。
「ほんとに何もかも中途半端であほらしいばかみたいな人生ですよ」
静かな語り口にその無念さが胸に沁みて、そうでしょう、そうでしょう、と思わず
肩をさすりたくなりました。お話を聞いているだけでOさんの人生そのものが愛
おしい。一人一人のお話を聞けばこういうことばかりなんだと思います。
がんばってとは言いにくいほど、気力が萎えそうになる時もあるでしょうけれど
ふんばっていただきたいです。もう一度図書館をつくるために。
山の手S記