毎朝9時を過ぎてから、出荷物のお餅を持って(時々は花も持って)道の駅に行きます。
今年の冬は例年になく厳しい寒さが続いて、私の花のハウスも凍りついて開かなかったりしますが、
野菜を作る人たちはもっと大変で、勿論路地の野菜は凍みて採れませんが、秋に種を蒔いたハウスの
冬野菜も育たない(この地方ではオガらねえ、と言うみたい)、と困ってます。
だから道の駅の販売用野菜籠はこのところガラガラ状態。持ってくる人はいるのですがお客様の
購買力のほうがスピードが速く力強いので、アッ!と言う間に無くなってしまうのです。
という訳で、私のように毎日顔を出す生産者、他にはお豆腐屋のNKさんとかお漬物のAKさんとか
は、日々バーコード室(値札を作ったり貼ったりするところ)、で顔を合わせるのですが、近頃は
めっきり他の出荷者と顔を合わせなくなってしまいました。私の時間がズレているのかと思って
「近頃みんな早いんだねえ。ちっとも会わない」とレジの人に言ったら「ズレてるんじゃなくて、野菜が
採れないから来てないの」と笑われました。
ところがこの数日、やっぱりどんなに寒いといっても春が近くなってきたんですねえ。
きょうなんか座れないほどの人数でした。そしてその話の面白いこと、為になること。
私の集落のアイちゃんが干し大根をくれました。大根は食べられないほどあったら拍子木や輪切りに
切って干すこと。輪切りの時は竹に串刺しにして吊るす。軒に吊るして雨や雪にさらすと
飴色になっておいしいが、今は放射能だから雨はいけない。縁側で干す。それを教えてくれたのは
同じ集落のトキコちゃん。という話をしていたら当の先生のトキコちゃんが運転手役のご主人と一緒に
「よーっこらしょ!」と現れました。
お二人とも80歳半ばのお年頃です。私が移住してきた頃はまだお元気だったトキコちゃんも近頃では
だいぶ体がご不自由になられて、トキコちゃんが入って来たと同時に居合わせた者が椅子を差し出して
トキコちゃんを座らせます。トキコちゃんが座ってお話しをしている間に誰かがバーコードを作って、ご主人
が店内に並べます。トキコちゃんはこの間全然目が見えなくなって手術を受けました。治ってやっと
道の駅に出て来たかと思うと、今度は魚の骨を喉にひっかけて、エヘン!と力を入れたらまた
眼底出血して見えなくなって、治療してやっと見るようになったんですって。目が見えなくなると思って
大根を人にやったけど、見えるようになったから、「もったいなかったなあ」って。 大根も人参も絶対捨てては駄目だって。しっぽまで食べられるから。
「私のほうがおいしいよ。食べてごらん」とトキコちゃんも干し大根を一袋くれました。アイちゃんのよりも
ちょっと切り方が小さくて飴色っぽい。売ってほしいけど、先生だからありがたく頂きました。
この辺の人はなんでも干して貯蔵します。タケノコだって干したり塩漬けにしたりして保存するんですよ。
豆腐屋のNKさんとこのおばあさんはこの間の大雪の時、自分で一日雪かきしたら、夜に全く動けなくなって
しまった。病院に行ったら筋肉が疲労で壊れちゃったとのこと。そんなことあるの?とびっくり。 そのまま入院治療したら、少しよくなったのだけれど、今度は目が見えないようなので明日は病院ですって。
へーッとびっくりすような話が多いのですが、この町から40分ほど山形のほうへ行った山奥育ちのNKさんと
その山奥に一時期畑を借りていたAKさんとの熊やマムシの話は圧巻でした。NKさんが熊と直接遭遇したのは
3回。弁当食われたくなかったから持ってるもの投げつけたとか、トラクターから降りて石ぶっつけたら熊が
川に落ちて流された。「ウーウーウーッて大きな悲鳴みたいな声あげるんだわ」
そうかと思ったらマムシに噛みつかれて持っていた鎌で切って血を出して、30分間山を駆け下りて血清のある 国立病院まで走ったとか。でもね、噛みつかれるほどマムシが怖くないNKさんは虫がとっても怖いんですよ。
田舎の人は虫に平気と思い込んでた私が、一度切り花を包んだセロハン紙の縁を歩いているアオムシを見つけて
「目瞑って手を出して」という私の言葉に素直に付き合ったNKさんの掌にアオムシを乗せたら、ゲッ!というような
声を出して卒倒しそうになったのには、私の方がほんとにびっくりした。後で周りの人に、「NKさんは虫がダメなんだから」と叱られました。NKさんは虫はダメだけど蛇は平気で、AKさんは蛇は絶対ダメだけど虫は平気だそうです。
二人とも60代初めの大きな男性なのに。都会から来た私は今では蛇も虫も平気です。それからもうひとつ、
マムシの赤ちゃんは蛇で生まれてきて、蛇の赤ちゃんは卵から孵るそうです。
そういえばここに住んで間もない頃、庭で小さな白いふわふわした卵を見つけて、なんだろうと踏みつけたら
小さな蛇の赤ちゃんがピヨンピヨン出て来て死ぬほど驚いたことがありましたが、近年白いふわふわ卵を
見なくなったような気がします。見なくなるのは減った証拠。よくない兆候ですね。
NKさんの故郷である山奥は今も森の木々をクリスマスツリーのように彩る蛍の生息地ですし、ブルーベリーが実る
馬の温泉もあるいいところです。
さんざんしゃべった後で、「朝のこの時間がいいんだよなあ」というNKさんの言葉にアイちゃんと一緒に来ていた
ユキコさんが言いました。「しゃべって笑うと楽しいよ。家にいたら一人で大根とにらめっこだから」
しゃべって笑えるのも今のうちだけ。野菜がオガって、稲の種まきが始まったら、忙しくてそんな暇もなくなります。
こうしてみんなの顔を見て「おはようございます!」という挨拶から忙しくて元気な一日が始まります。
都会でサラリーマンの奥さんやっていた時には、絶対に想像もできなかった朝のひと時です。
わたしも5月6月だけ産直のオバサンをしますけど、その時混ぜてもらう皆さんとの会話でためになること一杯あります。
「創意工夫」とか「気遣い」とか・・・でも一番ためになるのは「身体を張って生きる逞しさ」かな。
私、Kazさんの言葉が好きですよ。この頃歳をとって、言葉が出なくなっているんだけれど、kazさんのコメントを読んでは
そうだ、そんな言葉があったんだ!と毎回思います。次、楽しみにしています。