大震災から間もない頃、帰郷した福岡の繁華街でお洒落な雰囲気の和装雑貨のお店を見つけて
入ったことがあります。お店の名前は「木の花」さん。新潟から取り寄せた木綿の反物やバッグや
半巾帯など和装でも普段使いにもいいような布の小物のお店です。ひときわ目を引かれてほしいな、
と思ったのがデニム色の木綿地で作った丈長の作務衣。作りもしっかりしてますが、お値段もしっかり
してました。
何を思ったのか、その時私の口から飛び出したのは、「素敵な作務衣ですねえ。私、宮城から来たの
ですけど、この作務衣を南三陸の津波で流された縫製工場の方に縫わせて頂けないですかねえ」
「木の花」のオーナー、福田さんはあまりにも唐突な私の申し出に驚かれただろうと思うのですが、全く
動ずることなく「いいですよ」と。
後で知ったのですが、「木の花」さんは本屋さんで売っている和装の雑誌にも立派な写真が掲載され
ているお名前が知られた木綿屋さんでした。知り合いでもなんでもないのに、飛び込みで入って、
南三陸にお仕事くれませんか、と言う私も私だけど、即座に「いいですよ」と応えられる福田さんの
福岡的というか(私も同じようなものですが)、その気風と度量の深さに私は驚き、深く感謝したものです。
津波で仕事場を流された元縫製工場の従業員の方々とは避難先の鳴子温泉の旅館で知り合いました。
旅館の女将さんから提供された布で手縫いで作ったというエプロンの出来栄えの素晴らしさに驚いて
何かお仕事あったら紹介したいな、と思っていたのが、まさかのまさか。こんなところで縫う仕事と
結びつくなんて想像もしないことでしたが、そのお仕事は大震災から4年近くたった今でも続いています。
「良い方を紹介して頂いてありがとうございました」
木の花さんからはそう言って頂いていますが、乱暴者の私としては冷や汗もので、「あー、良いご縁で
ほんとによかった」と胸を撫で下ろします。
その木の花さんが、福岡のお店を閉めて、東京の神楽坂にお店を構えられたというお頼りを頂き
ました。東京に出てからデパートへの出店や通販も盛んになって、作務衣以外の縫い物のお仕事も
増えた。もし縫う方がおられるなら、というお申し出でした。
本当に有難い。南三陸の縫製の方が良いお仕事をして繋いでくれたご縁です。
石巻に電話をして伝えたら、渡波の方で「縫いたい」という方が出てきました。
福岡から南三陸に行って東京から石巻へ。布を縫うお仕事がこんなふうに手から手へ繋がっていくのは
うれしいことです。木の花さんの品物は、生活感から離れていない素敵さを感じます。
今度東京で木の花さんを訪ねたら、「お仕事ください」ではなくて、私のための作務衣を注文しようと思います。
「木の花」さん。ありがとうございます。