タノシムチカラで

朝5時、いつものように熊さん除けのラジオをしっかり抱えて、畑に向かいます。私一人ではありません。
熊が怖いから必ずうちの者と二人で行きます。

珍しく雲行きが怪しい。花を切り始めてしばらくしてドーッと雨が降ってきました。久しぶりの恵みの雨。
ドーッだけれどやめたくないので、ドップリと濡れねずみになって帰って来ました。

7時頃にはカーッと日が照りつけて、さっきのは何だったのだろうか、というような天気に。

そして夕方5時。1日の仕事を終えて、またもやラジオを大音響で鳴らしながら畑へ。花を切り始めたと同時にまたも雨!ドーッ!ほとんど豪雨。 またもや濡れねずみに。
雨は嬉しいけど、一日に2度も濡れるのはやっぱり嫌ですねえ。
でもこの雨は畑の土や木や苗にとっては恵みの雨。まだまだ足りないくらいだけど、ちょっとひと安心。

この日照り続きでは野菜の値段が高騰するでしょう。葉ものは虫との攻防戦が嫌だからあまり作り
たくはないんだけど、贅沢は言ってられないので、キャベツ、白菜、なんでもタネを蒔きます。

 

きのう、東京の木口版画家オカザワさんに野菜を送りました。
茄子、米茄子、ピーマン、赤い唐辛子(もの凄く鮮やかな赤色)、それと緑と黄色と濃い紫色のインゲンマメ。
畑で採ったのを片端から袋に入れてそのまま送りました。

この3色インゲンマメのタネはひとつの袋に入ってました。

初夏、「まだ蒔けるものないかなあ」と思いながら、埼玉県のタネの森さんに頼んだインゲン豆のタネです。タネの森さんでは農薬、化学肥料を使わないオーガニックの自家採種可能な固定種エアルーム種が販売されていますが、
こんな色のインゲン豆は初めて見たのでびっくりしたし楽しいです。

岡澤さんもびっくりしたらしく、「初めて見たー。楽しいー」と電話がありました。
煮るともっとびっくりするから。濃い紫色のインゲン豆はとても色がきれいなんですよ。ところが煮ると・・・・・。
煮ないで見ていたほうがいいわ。

きのうのよっちゃんのブログには共感しました。

私が生きた人生の50年以上を都会で暮らした後、ほんとの田舎のこの地に住んでみると、今までまったく
知らなかった地方の価値が見えてきました。資源は豊饒です。汲んでも汲んでもつきないほどの豊饒。
昔々はここと同じように緑の大地だったはずなのに、人間が途方もない時間をかけて東京や大阪の         あれほどのコンクリートジャングルにしてしまったかと思うと茫然とします。

あそこで地震などの災害が起こったら、と思うと心底恐ろしい。

私もあの中で暮らしていたんだから偉そうなことは言えないけれど、でもここで暮らしてみると、
都会暮らしの便利さや贅沢さと引き換えに、ずいぶんいろんなものなくしちゃったんだなあ、と思えます。

 

よっちゃん市、始まったら私も餅と花の腕を鍛えて参加します。
そしてお客さんの顔を見て、人と人の気持ちが通った商いをしたらきっと楽しいと思う。
四万十の梅原さんがおっしゃるタノシムチカラで実現できたらいいな。

 

 

 

TOさん、ありがとう

今日はちょっとだけ、アメとも言えないアというくらいの雨が降りました。
だから出て来たのかな。近頃めっきり見かけなくなった蛙が出てきて、うちの4歳が喜び勇んで捕まえて
います。なぜか名前がついていて、一番小さな緑色の雨蛙は三郎、中くらいのは二郎、大きい殿様蛙はフロッグ。
一日中三郎が逃げちゃった、二郎がどうした、「早く三郎を逃がしなさい」などと言っているので、知らない人が聞いたらまさか蛙とは思わないよね。

その蛙をお風呂で泳がせるというのが、最も楽しいらしいけど、今日は捕まえてきたトカゲを泳がせるというので
断固として断りました。何かいるんじゃないかと、安心してお風呂に入れません。

 

5年間うちでアルバイトをしてくれていたTOさんが今日「辞める」と挨拶に来ました。
大きなサーティワンアイスの箱持って。
夏の暑い間も水を被りながら汗みどろで花作りを手伝ってくれてたのですが、真剣さが過ぎていつも小走りで
歩く足がひっかかって転び、足は大がかりに擦りむき、手首の骨が折れました。
だから「歩いて!」といつも言っているのに。
朝はべつの仕事、午後からうちというふたつの仕事を大真面目に長いこと続けてきてくたびれたんだね。

 

T0さんがうちに来たのは5年前の9月頃。懇意にしている隣町でフリースクールを開いているTA氏のところから
「草取りをさせてもらえませんか」と訪ねてきてくれたのが最初です。ちょうどそのころそれ以前に2年間くらいを
アルバイトしてくれていたサトウ君が辞めて就職することになっていたので、ちょうど入れ替わりになりました。

 

サトウ君は13年間、TOさんは16年間ひきこもりさんでした。
長年ひきこもっていた、という過去の事実よりも、今外に出て来てうちで草を採ってくれるという彼の心境が嬉しくて
喜んで来てもらうことにしました。

畑は広いんです。(この郷では全然広いうちに入りませんが)。山や斜面を除いても約2000坪、隅から隅まで草取りをしていると、終わる頃には最初に取った草が伸びてます。畑の隅々でしゃがんで黙々と草取りをしている彼の背中を見ていると、最初の頃は胸が詰まるようでした。

時間が経って私たち家族にも馴染んでくれた頃から、花の仕事をやってくれるようになりました。
基本真面目。だから何をするのも一生懸命。一生懸命過ぎて、足元を見忘れるようなことも多々あります。
私たち歳をとった夫婦のことを生活に支障がないようにいつも気にかけてくれてました。地震の時も大雪の時も
いつの間にか様子を見に来てくれているのがわかりました。雪の中にタイヤの跡や足跡が残っているからすぐにわかっちゃう。

こうしていくつもの場面を思い返してみると、彼の心優しさは稀有なのだと感じさせられます。
彼が「辞める」ということを聞いて、ええッ?と驚いた娘が「寂しくなるわー」と感に堪えたように言いましたが、
私も彼の姿が見えない畑はやっぱり寂しい。

 

TOさんがこのブログを見る機会はたぶんないかもしれない。
でも100%ではないので、ここに贈る言葉を書いておきます。

TOさん、5年間もうちに来てくれてありがとう。みんなに優しくしてくれてありがとう。
これからどうするかは自分でも決まってないようだけど、これだけは気をつけて。

今しばらくはTAさんのフリースクールでの仕事を離れないでしょうけれど、離れざるを得ない時、
あなた自身を変えなきゃならない仕事には就かないで。長年ひきこもっていたから持っているモノサシが世間と
違ってしまったとあなたは言っているけど、それは違う。あなたが持っているモノサシがあなた自身なの。
変えなくていいんです。変えようとするとあなたが壊れる。

世の中にはあなたのモノサシを理解する人が必ずいます。その人のところで仕事をしてほしい。
元気になったらまた顔を見せてください。電話するよ。手紙も書くよ。
私は歳をとりましたが、それでももっとお給料が払えるようになったら、声をかけます。

いつもどんな時も一生懸命に緊張してお仕事しているから、疲れて熱が下がらなくなったりするんだね。走らないで歩いて、怪我をしないように、冬熱を出さないように、大事にしてください。

また会いましょう。ほんとにほんとにありがとう。感謝しています。