一筆

この2、3日、真冬に逆戻りしたようで寒い。

夜になると雪が降って朝起きると車の屋根が白くなっています。

わずかな陽だまりで日なったぼっこ中のシロ。外が好きな外猫なんだけれど、近頃年取って寒いのか

家の中に駆け込んできて、しばらく遊んでまた倉庫のシロハウスに戻ります。

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今日、1月から頭と肩に乗っかかって、どうしてもとれなかった重圧が消えました。ああ、ほっとしたー。

これでようやく安心して、他にもやらねばならぬ雑事に専念できます。まだ申告の準備もやってないんだから。

 

重圧というのは「屋根」の倉本先生から頂きたい一筆。

何回目だかの「屋根」大崎公演実行委員会のときに、委員会相談役である社長が「先生から何か書いて頂けたら

いいねえ」という提案が出たのが始まりでした。

言うは易し。けれどそんなことできるの? あの有名な倉本聰氏に「一筆書いてください」なんて誰が言うの。

時は12月。もう「屋根」の舞台稽古が始まってしまった時期で、白熱しているだろう舞台稽古のどんなタイミングで

そんなお願いができるのか。それも全国26公演地の中で、最も小さいおまけのような公演地の私たちなのに。

 

それに1月に公演が始まったら先生はスタッフ、キャストと一緒に公演の旅に出てしまわれます。転々と移動する

毎日でずいぶんお疲れになると思うけど、そんななかで「何か一筆書いてください」とお願いするなんて、ほんとに

身が竦む思いでした。

でもじっとしていてもコトは動かないので、第1回目は富良野公演で、吉田さんに後押ししてもらってお願いをし、2度

目はお疲れを想像すると更に言いにくいけど、勇気を奮い起こして福岡で更なるお願いをし、長々しいメールも書き、

ついに昨日一筆頂けたよー、というお返事をもらって、ああ、肩の荷が降りました。みんなに喜んでもらえます。

 

このところ、なんだかんだと文章の校正をしています。

時間をかければかけるほど、だんだん解らなくなる。特に自分が書いた文章ではない場合、更にわからなくなって

先日行った福岡までの新幹線の中でも景色を楽しむゆとりもなく、眠って頭を休めるか空中を睨んでで考えこ

んでいるかで5時間が過ぎました。それだけ時間をかけても遅々として進まない。凡人の限界です。

 

そういう時思い浮かべるのは倉本先生の一筆の数々。

富良野で「北の国から」の主人公、黒板五郎の家でニノ君への手紙を読んでいる時に、背後から「先生は書に合う

文字を決めるのに何年もかけられました」とスタッフの方に教えて頂いて、一瞬言われた意味が解らなかった。

先に一筆があって、それに合うように自分の字を替えるなんて、考えたこともなく、それを何年もかけて成し遂げる

努力をされる倉本聰という脚本家の気持ちの強さに驚くと同時に感銘を受けました。

 

ドラマの中の言葉も本に書かれる言葉も、そぎ落とされた短い一筆に有無を言わせない納得を感じさせられて

「どうしたらこんな言葉が出てくるんだろう」と言葉のひとつひとつにに目を離せなくなりますが、凡人中の凡人の

一欠けらのような私は、5時間考えようが7時間考えようがこんがらがるばかり。

 

3、4日後には公演先から送って頂く先生の一筆が私のもとに届きます。

「なんて書いてあるのか楽しみですね!」

事務局の斉藤さんが嬉しそうに何回もそう言ったけど、私もほんとうに楽しみです。

なんて書いてあるんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

go to「屋根」朝倉公演

新横浜プリンスホテルで5時半起床。

このホテルはでっかい。40階くらいあるんじゃないのかしら。円形のような形のビルで、1階はデパートのように

洒落た店が並び、2階はレストランなどがある気配。

6時半、朝食券を握りしめて、2階のバイキング式朝食レストランへ。途中、入り口で「朝食2200円」の表示板を

見かけてびっくり。2200円!バチが当たりそうな値段!今まで込み込みでホテル代払っていて、朝食代がこんな

い高いなんて知らなんだ。かといって、和、洋、中、勢揃いしているバイキング形式の朝食を2200円分食べられるは

ずもなく、7、800円分食べて朝食終了。山陽新幹線「のぞみ」に乗るべく新横浜駅へ。

 

「のぞみ」に乗るのはたぶん私は初めてです。博多まで5時間だというけれど、昔まだ福岡にいた若い頃、東京ー博

多の往復は寝台列車で23時間くらいかかっていたからすごい進化。たった50年ほどで進化というかこの変化、、

速いのは有難いとしても、それがいいことなんだか「もうちょっとゆっくりでもいいんじゃない?」みたいな気持ちが

あるのは否めない。

 

2時間で名古屋。「見よう」と思っていた富士山、見なかったことにここでハッと気づく。残念。

3時間で京都。岡山、山口と過ぎ、関門トンネルを通ったのも気づかず、終点博多に到着。

5時間、速かった。ただ速いけど、運賃は私の場合、飛行機より高いのが考えものです。

福岡で、昨日から待ちぼうけをくっている友人Mのために駅弁、おにぎり、おはぎなどを買いこみ、、タクシーで市の

中央部にあるM宅へ。Mは中学に入った時から金魚の糞のように何時も一緒にいた60年来の友人で、学校時代は

テニスのパートナーだったけど、私は止め、Mは今も現役。両方とも、親、夫を亡くしてMは猫5匹と同居中。

彼女に、「屋根」福岡(朝倉)公演の観客動員を頼みました。公演会場の朝倉郡甘木は福岡市内から車で1時間半

くらいかかる歴史ある小さな静かな町で、福岡育ちのMや私にとっては、観客動員はけっこう厳しいものがあるの

ですが、Mはできるだけやってみる、と快諾してくれました。

 

Mがチラシなどで紹介してくれて今日一緒に車3台を連ねて甘木まで同行すのは10人。さらにもう10人は甘木で

合流することになっているとのこと。Mは東日本大震災時には八面六臂の大活躍で東北を応援してくれ、横浜から

熊本に移住して田舎暮らしを始めた私の友人が病死した時には、50過ぎての取り立ての免許証で、熊本、福岡を

3回も往復して、見ず知らずの土地での告別式で戸惑う友人家族の手伝いをしてくれました。喪服の用意から

犬数匹、猫十数匹、カラスの世話まで引き受けてくれるなど世話になるばかりで足を向けて寝られません。

 

彼女の運転で6時に到着。7時開演は私たちの大崎公演と同じ。

同じく観客動員を頼んだ従妹のところに挨拶に行ってみると、バスを仕立てて30人態勢で来てくれてました。

従妹の会社の従業員さんばかりではなく、我が母方の親戚一同が座席に並んでいるのを見て超びっくり。

こんな機会がなかったら、葬式でも会わなかっただろう面々。もしかしたら最後かもしれない出会いの場を作って

くれた「屋根」の神様に感謝です。

 

「屋根」を観るのは富良野、仙台、に続いて3回目。今回は最前列で観ることにしました。

最前列で観るお芝居は、舞台上の役者さんの足が見えないけれど、声もよく聞こえて、前回解らなかった部分も

よく解り、解ったら改めて涙、涙・・・。

何度観てもまた観たいと思わせられるお芝居ですが、この舞台を日本縦断しながら1日置きくらいに演じ続ける

役者さんたちの体力、精神力に頭が下がります。

 

11時、M宅に帰着。流石に疲れて、お昼の駅弁の残りを分け合って食べ、すぐに就寝。

翌早朝は、Mの外飼いの犬たちの散歩が終わるのを待って、食事もせずに空港へ。昨夜調べたところによると

今朝の福岡ー仙台便も満席傾向でとれるかどうかが微妙。空港に入って最初に通りかかったJALで聞いてみると

表示は△マークで1席とれました。よかった! これで帰れる。帰れないかもしれないと思っていたのでひと安心

しました。午前中に仙台帰着。

 

空港から電車、新幹線、車と乗り次いで家に帰ると、黒田さんとあやさんがロイズ新聞バッグの検品中。

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私がいなくてもこうしてやってもらえるようになったってこと、私は嬉しいです。現場仕事に役立たない私を脇に

置いといて、ふたりでがんがん仕事を進めてくれる黒田さんとあやさんに感謝。

でも仕事は夜になっても終わらず、一人コツコツと深夜1時までロイズ新聞バッグの袋入れ作業。

 

あっという間に通りすぎた福岡訪問。

それにしても福岡のMの家に泊まって、コーヒーいっぱい飲まずとんぼ帰りするのは初めてでした。

動いているとろんなことがあるものです。