手拭い1本もない

元南三陸新報記者O氏の写真を受け取りに佐沼へ。

佐沼は南三陸からの被災者のための大きな仮設住宅がある町で、うちから30分ほど。
まあ、あっちでもこっちでも工事に次ぐ道路工事。所々で剥がしたアスファルト片が道路脇の
空き地のようなところに山になって置かれている。宮城県は土地だけは広ーくて余りあるほど
あるから、こんな時には困らないんだなあ。

「こんな工事だらけでここで大きい地震が来たら宮城県は破産するんじゃないですか」
Oさんに言ったら、
「まだ手つかずのところもいっぱいでしょ。でもこれは応急の仮工事で本工事は3年くらい後
じゃないですか」
ええーッ!  こういう時、宮城県は海も山も徹底的に破壊されたんだなあ、と改めて思い知る。

今日の用事は写真をお借りすることなんだけど、お話ししているうちに以前からお訊きしたかった
ことを思い切ってお尋ねすることにしました。
まっすぐに「家もお仕事も、持ち物も一瞬にして全てを失くすというのはどういうお気持ちがする
ものなのですか」
Oさんはしばし考えられた後に「これでまた始めからやり直しだと思いました」と答えられた。

何故こんな質問をするかというと、初めてお会いした時に「手拭い1本もない」と仰ったことが
今も忘れられずに耳に残っているから。手脱ぐい1本もないとはどういう心境なのか、同じく
内陸で被災したとは言っても、壊れただけで家も食べるものも自分の歴史といえる持ち物も
私は失っていないから。

海山ネットでは新聞バッグの他に、ご支援で届けられた布で南三陸の縫製者の方々に布小物
を作っていただき、希望の価格で買い上げて、それを首都圏などで販売しています。
売れないと困ってしまう。海山ネットはどうなるのーということになってしまう。で、やっぱり
技術だけではなく、今の東北以外での流行とかデザインとかを知ってそれを作る方に伝えたい。

「今どんなもの流行ってる?」と関東圏に住む友人に聞いたり、逆に首都圏や他の街で
販売をお願いした方から「もうちょっとキラキラつけたほうがいい」とか「あのエプロンデザイン」では
売れません」とか言われたりした時、どうやってそれを伝えたらいいのか。

「やっぱ見なきゃだめよ」と言われても店がない。本と言われても本を買えばお金がかかるし、
本が売ってるところに行くまでは車で40分も50分もかかるし、第一車がなかったらバスも
電車もない。ネットで見れる、と言われても仮設住宅ではネットは繋なげない。
なんか笑い話みたいなのですが、いろいろ教えてくれても、ある所と無い所の会話なので
食い違って、その説明だけで疲れてしまう。

福岡の人なんかからよく言われます。「だいぶ復興したでしょう」って。新聞やテレビなどで
お店開いたと報道されたら元に戻ったかのように思うかもしれないけれど、あくまで仮設。
宮城県の被災地はまだ住宅もお店も本物の建設は許可されていないのだから、仮設住宅の
お店であり、トイレが外に置かれている仮設のセブンイレブンであり、ファミマなのです。

外側のことだって被災地のことを被災地ではないところに伝えるのはこれほど大変なの
だから、本当の被害にあっていない人々と、何もかも失くした人の間には、言葉は言い表せ
ないほどの違いがある。

失くした人は前にあったんだから、失くす前の生活も心もわかります。でも失くしたことの
ない私は、本当に失うことがどういうことかわからない。
以前一緒に竹盆栽作ったノブちゃんは、後期高齢者年齢だけど、会うたびに支援品の緑色の
ナイキだったり赤のアシックス履いていたりで、足が若々しい楽しい人でした。
ノブちゃんが流された資産は船を入れて4億と聞いて仰天したけど、私たちから見れば
かつて御殿のような家に住んでいて今は4畳半2間の仮設に暮らすノブちゃんの心は
測りしれないのです。「どんな気持ち?」とは聞けないし、ノブちゃんも言えないと思う。

 

そんな質問を何をうかがっても大丈夫に見えるOさんにしてみました。
「生き方が変わりました。物やお金はほんの少なくとも生きていける、と思うようになりました」
と仰った。
「手拭い1本もない。何にもないという心境はなってみないと想像がつかないと思いますよ」とも。

なってみるわけにはいかないけれど、だからこそ被災地に生きる方たちの暮らしのことも心の
こともできる限りの想像力を駆使して想像しなければならないと、失礼な質問を致しました。
まっすぐに答えて下さってありがとうございました。Oさん。

久しぶりに見る0さんの写真はやっぱり凄かった。悲しくて切ないけどド迫力。イタリアでの
イベントは是非成功してほしいと心から願います。

 

 

手拭い1本もない” への1件のコメント

  1. 海も山も破壊した地震のすごさ、毎日凸凹した道を通るたんびに思います。道路は修復工事をした後も解消しきれない段差があるけどいつかまた工事して直すのかな。

    生活用品は身体の一部のようなもの。これらの物が無いのは辛いと思う。

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