現状

   久しぶりに古川へ行った。住まいから最も近い市街地古川には地震の前には頻繁

   に行っていたのだけれど、3月11日に古川で地震に合ってから行きたくなくなってし

   まった。地震で傷だらけになった古川の町並みを見るのがつらいのだ。

   駅前にあるメインストリートの商店街は危険の赤紙が貼られたり、割れたり歪んだり

   している建物が多い。これまで住まわれていた方はどこに行かれたのだろう。

   そんな家がいくらもある。数を数えるなら危険の建物は何軒とか簡単に言えるが、

   その建物ひとつひとつに人の人生があったのだと思うと、言葉もない。

   津波も同じだ。今日の新聞では死者、行方不明者は2万4029人、避難者約11

   万人、と報道されている。数でいえばそうだが、一人一人の大切な人生がその

   瞬間まであったのだ、、と思うと胸が潰れそうになる。震災から2ヶ月経って、お店

   が開いていたり、壊れた建物に修理の手が入っていたりすると、一見元に戻り

   始めているかのように見えるのだが、実際に車を降りて歩いてみると、このビル

   もあのビルも舗道も、簡単には修復などできないくらい痛々しく壊れている。

   食品スーパーに入っても天井が無かったり、2階がなかったり、早々と閉まっていた

   りで、買い物をする意欲がなくなってくる。

    道の駅に来るお客様。イカリソウがないかと仰っていた。たくさん持っていたのだ

   けれど、海水を被って全滅したそうだ。そこにあった紅色のイカリソウを欲しい、と

   言われたが、もう水は入ってきませんかと伺うと、毎日2度家の中に海の水が

   入ってくるとのこと。それでは育てるのは難しいかもしれませんね、と諦めていただ

   いた。

   前からよくみえていたお客様。家がなくなって知り合いの小屋を借りて住んでいるが

   気が滅入るので、たくさん花を買って植えて気晴らししたいとのこと。20も30も

   植えたいと望まれたが、お水はあるのですか、とうかがうと、出ないと仰るので、

   20も30も枯れたらもっと気が滅入りませんか、と諦めていただいた。

   ご高齢の婦人がお孫さんと一緒に沿岸部の避難所から気晴らしに来られた。

   お孫さんのご両親は亡くなられて二人だけ助かったとのこと。避難所で寝るのは

   大変なので、この子はずっと車で寝ている、と仰るお顔はずいぶんお疲れの様子

   だった。鳴子に来ない?と訊いたら、転校はいやだと女の子は首を振った。

   市街地のこの先どうしたらいいかわからないような被災の姿、地盤沈下したうえ           

   に防波堤がないから道路から家の中まで海水に浸る現状、電化製品つきの仮設

   住宅ができても、買い物ひとつするのに、店がある町まで40分も1時間もかかる

   うえに、水が出ないという今の状況。

   考えていると思わず気が滅入ってくるのだが、イカリソウでも30でも40でもの季節

   の花を諦めていただかなくてもいい日が、そして女の子が車の中で寝ないでも

   よくなる日が一日でも早く来るように祈りたい。